【書評】ホワイトカラー消滅 私たちは働き方をどう変えるべきか/冨山和彦

読書

IGPIグループ会長でもあり企業再生のプロでもある冨山和彦さんによる著を読む。

消滅する前に読めて良かった。

明治維新に匹敵する大転換

これから明治維新に匹敵する大転換期を迎える日本に対し、「シン・学問のすゝめ」となることを意図されて著されています。

明治維新後は支配階級であった士族が大量失職しましたが、これからは今まで社会の中心を占めていた「ホワイトカラーサラリーマン階級」がデジタル化により急激に減少し、人余りが生じます。

それと同時にローカル産業では急激な人手不足が進行中で、放置すれば人々の生活を支えるサービスが維持できません。

ホワイトカラー消滅: 私たちは働き方をどう変えるべきか (NHK出版新書 728)
人手不足なのに、なぜ人が余るのか?少子高齢化による深刻な人手不足と、デジタル化の進展による急激な人余りが同時に起きつつある日本社会。人手不足はローカル産業で生じ、人余りはグローバル産業で顕著に起こる。これまでの常識に捉われたホワイトカラーは...

これに耐えうる冨山さんのシナリオとしては、

  • ホワイトカラーは本当の経営・マネジメント職(意思決定を伴うボス仕事)のみが残り、他はAIにより代替
  • 残りの労働者は人手の足りないローカル経済の主な担い手であるエッセンシャルワーカー、またはローカル企業の経営職へ移行

となり、全員が何らかの技能職である必要があります。

※:人々が最低限の生活、あるいは快適な生活を維持するために欠かせない職業。代表的には、医師、介護、交通、インフラ、物流、公共サービス、小売、農水産など

また2点目は、エッセンシャルワーカーに十分な賃金が支払われる必要があるため、付加価値労働生産性を何倍にも高めることが前提ともなっています。

今の私たちを取り巻く世界とは大きく異なり、容易には想像がつきにくいですが、

この状況(少なくともホワイトカラーの人余りとローカル経済の人手不足)は必ず訪れるものであるため、

おまえたち備えよ!

と言ってくれているわけです。

ありがとう冨山さん。

私たちは何を通じて価値を生み出すことができるのか

私たちの社会システムには変化を鈍らせる慣性が存在します。

社会制度自体も現在はホワイトカラーを維持する形に整備されており、

これらの制度変化は一気に進むわけではありません。

しかし、これらの変化は私たちの気づかないうちに着々と進行し

変化が明らかになった時にはもう遅い

ということになりそうです。

中でも求められるスキルギャップという意味では私たちホワイトカラーに求められる変革は極めて大きなものになるでしょう。

以前、「ブルシット・ジョブ」の書評でも書きましたが、以下の記述に見られるような「ボス仕事・マネジメント」をしていると言えるホワイトカラーは私の周りを見回してもごくわずかです。

ホワイトカラーに残る仕事は、本当の意味でのマネジメントである。現状、いわゆる中間管理職が担っている管理業務ではなく、経営の仕事だ。これまでは数多くあったホワイトカラーの「部下仕事」は、生成AIに急速に置き換わる。問いのある仕事、正解がある仕事において、圧倒的な知識量、論理力、スピード、昼夜働く力に人間は勝てない。残るのは自ら経営上の問いを立て、生成AIなども使って答えの選択肢を創造し決断する仕事、すなわち「ボス仕事」だけである。言わば中間経営職ということになるが、そこで必要になる人員数は現状の中間管理職よりも一桁少なくなるはずだ。企業は従業員に対して、数少ない「真のボス」ポストを目指して真剣勝負をしてもらうか、部下ホワイトカラーとしてAIの圧力で下がる賃金に耐えてもらうか、それとも人手不足かつ(後述するように) AI代替が起きにくいノンデスクワーカー技能職の世界に転職するか、を問うべきだと思う。冷たいようだが、長い目では厳しい現実を伝えないほうが不誠実だ。鬼手仏心で臨むべし。

私の体感からしても、周りのホワイトカラーの人数を半分に減らしても顧客に提供する価値が激減することはないと思います。

だからといって簡単に技能職の世界に飛び込めるものでもないです。

私のように手先も不器用だし、特に役に立つ技能を持ってないという人もいると思います。

だからこそ私たちは、何で価値を生み出すことができるかを真剣に考えなければなりません。

駐在員の提供する価値

私はアメリカで駐在員として働いていますが、ひと口に駐在員といっても役割は人により色々です。

  • 本社からの子会社マネジメントの一環として駐在するケース
  • 子会社側に不足するリソースや専門性を補完するために駐在するケース
  • トレーニーとして駐在するケース

などです。

トレーニー派遣は先行投資ですので別と考えても

子会社マネジメントが目的であれば、その本社ニーズに従って駐在している訳なので、

その期待値・支払いコストに見合う働きや機能を(マーケットプライスベースで比較しても)果たしているかという視点はとても重要だと思います。

駐在員であっても現地での実務は現地スタッフの方が専門性が高い、経験も豊富であることが多く、

もちろん私たちと違い言語ハードルもありません。

駐在員は本来的に、付加価値を生まない中間管理職的な役割を果たしやすい側面もあることは注意したほうがよいでしょう。

今後翻訳アプリの発達がどんどん進み言語ハードルが消滅してしまえば、

価値を生まない駐在員が消滅するべきホワイトカラーの筆頭である可能性もあります。

また、ホワイトカラーの学ぶべきもの、そしてこれが身についていれば、十分な差別化要因になるものとして、リベラルアーツの基礎編である言語的技能・技法が挙げられています。

現代のホワイトカラーサラリーマンにおすすめの学問があるとすれば、まずはこうした言語的技法を現代にアレンジして身体化することである。簿記会計は現代ならエクセルを使った財務三表の連動モデリング、および基礎的な企業財務技法(要は企業や資産の価値評価手法) の習得まで入るだろうし、デジタル空間でものを考えるときにプログラミング言語やAIの基本構造、基本特性を理解しておくことは必要となる。まさに福沢諭吉の『学問のすゝめ』は現代にも生きているのだ。言語的技法のいいところは、ものを考える手段として機能するレベルまでなら誰でも時間を使って反復と丸暗記をしていけば到達できる点である。

本書では、外国語習得は人によってはかなりの時間を要するため、まずは母国語の言語能力を高めることの必要性を強調していますが、

私自身、英語やMBAなどのビジネススクールで習得する基礎実学が、差別化においていかに強力であるかを身をもって感じているため、

納得のいくところであると同時に、デジタルなどもっと自身が習得しなければならない実学の多くが中途半端であることに気づかされます。

また、海外赴任というと一般的に修羅場的なイメージを持たれやすいかと思いますが、

これは主に言語ハードルや文化差異から来るもので、

単に海外に来て本社との間の橋渡し・調整をしていてもマネジメントの技能が身に付くことはないと思います。

国内・海外を問わず、意思決定が求められる場所(修羅場)をいかにキャリア初期に積極的に取り込んでいくかがこれからのマネジメントを目指す世代にとっては必要なアクションになります。

既におじさん・おばさんになっている私たちは

きっと彼らよりもより強い痛みに耐えてでも、アンラーンをし、マインドセットを切り替えなければならないところに来ているということなのだと感じました。

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